総合診療ひとり研究会

総合診療を極めたい若武者の個人的戦闘日記

総合診療って、なんなんだ

「総合診療って何なのか教えてくれ」と言われたら皆さんはなんて答えますか?

なんでも診られる内科医(ジェネラリスト)、難解な症例を解き明かすスーパードクター、地域に寄り添う家庭医等々、色んな答えがあると思います。

 

ちなみにWikipediaには次のように記載されていました。

『あまりにも専門化・細分化しすぎた現代医療の中で、全人的に人間を捉え、特定の臓器・疾患に限定せず多角的に診療を行う部門。また、外来初診の「症状」のみの患者に迅速かつ適切に「診断」をつける科でもある』

 

各診療科への割り振りも、診断がつかない難解症例の対応も、専門科が見たがらない疾患(専門の狭間にいる患者さん)の管理も、どれも総合診療医の役割だと思っています。どの部分のウェイトが重いかは地域や病院によって変わりますが。

 

自分にとって本当に目指すべき総合診療医の姿とは何なのか、色んな専門科の先生方からの総合診療に対するディスリに耐えながら悩み続けました。

ただ、有難いことに私は出会いに恵まれ、日本では知らない人がいないくらいのジェネラリストの先生方や、まだ知られてはいないけど戦闘力がバカ高い先生方との交流の中で、ひとつの自分なりの答えを見つけました。

 

もし私が総合診療医を定義するなら次のようにします。

『解剖・生理に基づいて俯瞰的に病態を把握するスペシャリストで、専門科が最高のアウトカムを出せるような土台を築ける医師』

 

なんだ、そんなの当たり前じゃないかと、何を今更言っているんだと、そうお思いのことでしょう。でも、果たして本当に忠実にこれを実行できる総合診療医が日本でどれだけいるでしょうか。

 

例えば、総合診療界隈の勉強会やカンファといえば、難解症例の臨床推論がメインです。症例のプレゼンテーションからパネリストが知恵を振り絞って、難しい診断名を口々に答えていきます。

もちろん、臨床推論は総合診療の醍醐味の一つではあるのですが、それは土台がしっかりあってこそです。commonな疾患、criticalな疾患を正確に評価できて初めて、例外的な疾患の検討へ進めます。例外はあくまで例外であり、それを認知していないとバイアスに足元をすくわれます。

総合診療医は知識が豊富で色んな分野の疾患に対応する分、バイアスに脆弱で、下手な知識は診断をあらぬ方向に持っていったりします。

そういった危険から総合診療医を守ってくれるのは、やはり基本的な解剖・生理の知識です。仮に正確な病名をつけられなくても、患者さんの身に何が起きているのか・ヤバいかヤバくないかを評価できていれば、少なくとも大負けすることはありません。

土台がないのに高いところへジャンプしようとすれば、うまく到達できなかった時に着地で大怪我をしてしまいます。

当たり前を当たり前にこなせないと他科からの信頼はいつまでも得られないはずです。

 

そして、総合診療を考える上でもう一つ重要なのは、専門科との連携の上で成り立つということです。

何でも診られるというのは、何でも診続ける・囲い続けるということではありません。病態の評価をして、速やかに専門科に繋いで、最高のアウトカムを患者さんにもたらす必要があります。

これを言うと、専門科の先生方から、結局専門に診てもらうなら総合診療いらないじゃん、救急科でいいじゃんと言われてしまいそうですね。

しかし、高齢化が進み、multimoribidityが当たり前の時代で、専門科だけでの管理は確実に患者さんの予後を悪くします。専門的疾患の治療以外のnon criticalでcommonな部分は、なんとなくで済まされているところが多いです。(ロキレバとか眠剤とか、、)

そのなんとなくを、なんとなくで終わらせずにしっかり突き詰めて、美しく管理するのが総合診療医の役目です。完璧な土台を整えれば、専門科も余計なことを考えずに済みますし、何より患者さんにとってベターな予後が待っているはずです。

地域医療では特に専門科の先生が少なくて一人当たりの負担が大きいですから、総合診療医が専門科の負担を減らすのは、sustainableな医療を実現する上で非常に重要です。

また、総合診療は確かに救急的な素養も必要ではありますが、救急と明確に違うのは予防やアフターケアも求められることです。今の状態を適切に評価して、何かが起きる前に予測して先手を打てるのが総合診療医の強みの一つです。(これも個々の患者さんの解剖・生理に基づいた評価が為せる業です)

 

日本の総合診療の定着度合いは世界に比べると何周も遅れていて、個々人の能力のばらつきも大きく、役割もあやふやなところが多いです。

実際、総合診療という分野に懐疑的な考えを持っている先生方の方が多数派なのではないでしょうか。

だからこそ、私は総合診療医としての戦闘力を高められるだけ高めて、総合診療はこんなに凄いんだぞと証明してやりたいです。

日本の総合診療の発展に尽力されているレジェンドたちのバトンを受け取って、次に繋げるという使命を、勝手に自分に課しています。